城南保健生協 野口修二(日本体力医学会認定健康科学アドバイザー)
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2005年4月の日本内科学会で肥満学会など8学会からなる「メタボリックシンドローム診断基準検討委員会(委員長松沢祐次
住友病院院長)」が新しい日本人向けの診断基準を提唱してから、メタボリックシンドロームとか、内臓脂肪とかいう言葉が話題を呼んでいます。これらの概念は以前からありましたが、今回の話題は「ウエスト径」の基準を内臓脂肪蓄積の目安としたところにあります。
<動脈硬化性疾患の危険性はなんと10倍>
検討委員会によるとメタボリックシンドロームは内臓脂肪の蓄積(肥満症)を必須として、その他に(1)高中性脂肪血症または低HDLコレステロール血症(高脂血症)(2)高血圧症(3)高血糖(糖尿病)の(1)〜(3)のうち2項目が当てはまることとしています。
肥満、高脂血症、高血圧症、糖尿病は「死の四重奏」と言われ、動脈硬化性疾患のリスクファクターとして知られています。日本の企業労働者12万人を対象として調査では、軽症であってもこれらのリスクを2つ持っている人はまったく持たない人に比べて心臓発作(心筋梗塞)を起こす危険性が10倍高いということがわかっています。3〜4つ持っている人は31倍と言われています。たとえ一つ一つのリスクファクターの程度は軽くても侮れないということです。メタボリックシンドロームでは「肥満」+他のファフクター2つということですから、「死の四重奏」のリスクファクターのうち3つ以上持っていることになります。
メタボリックシンドロームは予備軍を含めると全国で2000万人とも言われており、政府としてもメタボリックシンドロームの概念を念頭に置いた検診・保健指導のシステムを検討しているようです。
<なぜ「内臓脂肪の蓄積は必須」なのか>
最近の研究で脂肪細胞から分泌される物質に動脈硬化を防ぐ「アディポネクチン」という物質があることがわかってきました(大阪大学分子制御内科学教室)、この物質はタバコや高血圧、血糖の上昇、血中脂質などによって血管が傷つけられた箇所を見つけ修復する働きがあります。標準的な体格の人の血中にはこのアディポネクチンは多く存在しますが、内臓脂肪が増加すると減少することがわかっています。ですから、「内臓脂肪型肥満」は別格扱いなのです。
<内臓脂肪型肥満を早期に見抜く>
今回の診断基準の特徴は「ウエスト径」を測定することで内臓脂肪の蓄積具合を推定するということです。基準では男性で85cm以下、女性で90cm以下が日本人にあった基準としています。測定方法は立位で軽く息を吐いた状態で臍の高さで測ることになっています。日本の基準は男女ともCT検査で測定した脂肪量の100平方cmに相当するそうです。
保健生協でも青空健康チェックや班会の中で、ウエスト径の測定を積極的に取り入れたいとおもっています。
<内臓脂肪を歩いて減らそう>
皮下や内臓(腸間膜等の)脂肪がエネルギーに変わる為には、脂肪酸とグリセリンに遊離し血管内に入り筋肉細胞内のエネルギー産生の回路に入る必要がありますが、皮下と内臓では内臓脂肪の方が利用されやすい(遊離しやすい)ことが知られています。つまり、内臓脂肪は比較的減らしやすいといえます。
また、定期的な運動はHDLコレステロールを増加させたり、インスリンというホルモンの働きを刺激して血糖値上昇を抑えたり、血圧の正常化にも効果があるとされています。
厚生労働省の「健康日本21」によると健康維持に必要な運動量は一週間に2000Kcal、一日あたりにすると300Kcalとなります。体重60kgの人が時速4kmで10分間歩く(歩幅70cmで1000歩)と消費エネルギーは約30Kcalとなります、このことから一日の歩行数の目安は1万歩ということになります。これが運動量の目安でよいでしょう。実際このような運動を3ヶ月続けることによってウエスト径を皮下脂肪も含めて18cmも減らした例があります(食事療法も合わせて行っています)。ウエスト径を1cm減らすと内臓脂肪が4%減るともいわれています。
<日常生活に取り入れてこそ効果的>
一日に一万歩といっても続けて歩こうとしたらおよそ100分(1時間40分)かかります。脂質代謝の活性化の為には比較的長時間の運動が必要ですが、いきなり100分間の歩行をすると、膝を痛めたりしてかえって続かないことがよくあります。そのような意味から一回の続けて歩く時間は30分程度が良いのではないかと思います。ほとんどの人は日常生活の中で3,000歩程度は意識せずに歩いています、また、少し意識すれば日常生活の歩数を4,000歩程度に増やすことができます。ですから、運動としては30分を2回(1回3,000歩程度)行えば目標の一万歩に達成します。この30分2回の運動時間を一日の中でどこでとるかが工夫の必要な所ですね、通勤や買い物などの時間をうまく利用することが大切だと思います。
<膝痛などで長時間の歩行が困難な方>
歩行運動は安全でどこでもできる良い運動なのですが、膝痛などで歩行が困難な方は自転車こぎでも良いと思います、最近の研究では、歩行と自転車では実施時間が同じであれば消費するエネルギー量はほぼ同じとされてます。ただ実際の街中では信号で止まってしまったり、坂を下る際にはただサドルに座っているだけであったりして若干歩行よりも消費エネルギーは少なくなるかもしれません、できれば河川敷などなるべく平坦で頻繁に止まらないコースを選んで行うと良いと思います。
注)ここに上げた運動量はあくまで一般的な目安です、運動を始めようと考えている方は個々にはそれぞれの医師と相談していただくことをお勧めいたします。
6月から大田病院より城南保健生協の移籍した野口修二の紹介です
・1969年 八王子 生まれ
・東海大学体育学部卒(専攻は運動生理学)
・芝病院にて過労性疾患の運動指導
・小田原循環器病院にて循環器運動療法指導のかたわらスイミングクラブでコーチ
・大田病院リハビリテーション科にて生活習慣病運動指導、呼吸器疾患の運動療法についての研究
・専門学校非常勤講師、保健所の健康講座講師、生協班会講師など
・2006年6月大田病院より城南保健生協本部に移籍
・「生協で地域の方々の健康増進のお手伝いの仕事をすることが、以前からの希望でした。今まで外から生協の活動を見ていて感じた事などを生かせていけたらと思っています。宜しくお願いいたします。」 |