味覚と食生活を考える
配食サービスけやき  山下珪子(管理栄養士)


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 「食と栄養」に関する情報はテレビ、雑誌を中心に溢れています。特に「○○は体に良い」と毎日異なる食品の効能をこれでもかと送り続けてくるテレビ番組はその象徴です。そして・・・
・ マスコミから流される情報を受け入れて実践したら、数年で体重が10kg増加した。医者には脂肪肝と言われた。こんなに努力しているのになぜ?
・ 自分の好むものを食べて空腹感を満たせればよい、栄養バランスはあまり考えない。
・ ダイエットのため主食(糖質)の食品は控える。
・ 菓子パンと菓子類は常に食卓にあり、食事と間食の区別がなくなっている。
このような食に対する考え方や行動をする方が多くなってきているように感じます。なぜ、このようなことがおこったのでしょうか?

食生活の変化で栄養バランスが崩れ生活習慣病に

 それは昭和30年代以降の日本経済の高度成長により、食品分野に於いても、加工・流通の発展の中で、大量の食品が生み出されて、誰もが簡単に食物を手にすることが出来るようになりました。そのことが大きな要因としてあげられます。今私たちは好きな物を好きなだけ食べられる、人類史上最も恵まれた時代に生きているように見えます。しかしそのことが、親から子に受け継がれる家庭料理、食事作法全般も含めて連続性が断たれてしまったわけです。ほんの数十年前までは飢餓との闘いで、一粒の米も大切にしていたのです。
 図1のグラフは食料の消費割合の変化を表したものですが、わかりやすく言えば、昭和35年ごはんは一日お茶碗約5杯(315g)から平成12年約3杯(178g)に、牛肉はステーキ(150g)換算でほぼ2ヶ月(50日)に一度の“ごちそう”から一週間に一度の“普通の食事”に変化しました。

グラフ

 私たちの食生活は、昔はごはんを中心としたものでしたが、次第に果物や油脂類の消費も増えてきました。その結果1975年(昭和50年)頃には、主食であるお米を中心として畜産物や果物などがバランスよく加わった、健康的で豊かな食生活「日本型食生活」が実現しました。しかしその後は、お米の消費が減少する一方で、脂質の消費が年々増加しており、栄養バランスの崩れが見られ、肥満や高脂血症、糖尿病などの生活習慣病の増加の原因になっています。発症原因として、遺伝、ストレス、運動不足などの要因もありますが、ここでは食生活に絞って考えたいと思います。

1日30品目でバランスよく

 まず第1に食事はバランス(一日30品目を目安)が大切です。その上で高血圧症の予防には塩分摂取量を減らすことが大切です。国民栄養調査によると、現在日本人平均1日13gですが、10g以下に抑えることが必要です。
 高脂血症、糖尿病の発症は動物性タンパク質、動物性脂肪の摂取量増に比例しています。(肉類、乳製品、等)
そして、これらの疾病予防、改善のために、食生活の改善が必要なわけですが、一部の人を除いて、なかなか成功しません。その原因として以下の点があげられます。
・ 改善点が具体的にイメージできない。
・ 自分は食べるだけで、食事作りにかかわらない。
・ 生活が多忙で、他者依存。空腹を満たすことが優先。
・ 栄養士の話より、一部のマスコミ情報のほうが、わかりやすく効果がありそう。
・ 栄養士の話は理解できるが、自分の好きな物、おいしい物を食べることが生きがいとなっている。
そして、この「おいしい物」を食べたいという欲求は誰もが持っているものですが、不思議なことに、同じ食物でも人により「好き嫌い」「おいしい、まずい」が異なることです。どこからそうした差が生まれてくるのでしょうか?ここでは人間の味覚について考えてみたいと思います。

味覚と嗜好について

 人間の味覚には(甘い・辛いなど舌で感じる感覚)は5つあると言われています。
甘味:多くの人が本能的においしいと感じる味といわれています。味覚訓練のない赤ちゃんがすぐに受け入れられることができます。同時にこれらは単位当たりのエネルギー量が高く、生命維持に必要なものとして人類が無意識のうちに受け入れてきました。しかし、飢餓状態を生き抜く術として、人間の体は少ないエネルギーで生命維持活動ができるように作られているため、長い人類史の視点から見て、飢餓状態から脱したばかりの現在においては、エネルギーオーバーになることが多いのです。
 苦味・酸味:食生活の幅を広げ豊かにする、大人の味です。また、食物の腐敗からの防御という役割も判断しています。現在は食品メーカーの「消費期限」に委ねていますが、本来は人間の五感を使っていました。
 塩味・辛味・旨味:「本物の味」を見極める舌が大切です。旨味は塩味をやわらげるはたらきがあるので、薄味と思っていたものが意外と高塩分であることもあります。旨味調味料(化学調味料)は要注意です。
 多くの食品はこれらが一つでなく複雑に重なり合って独特の味を生み出しているのです。
 一般論として現在のように大量の食品が流通している中で、単に空腹を満たすことは簡単なことですが一日30品目を目安とするバランスのよい食生活を送るためには、これらの「味」をそれぞれ楽しめることが重要です。すなわち偏食をなくし、調理法をたくさん知ることです。味覚は変わることもありますが、変えることもできるはずです。家庭料理や郷土料理もこうした土台があってこそ、復活するのではないでしょうか。特に塩味は単なる食習慣(例えばメン類の汁は飲む、出来合いの弁当のソース類は必ず使用するなど)によるところが大きいので、改善が期待できます。
 そのためにも、今まで料理をしたことのない人たちに、是非簡単なことから始めて欲しいと思います。

自分で簡単な料理の経験を

 人間は自分で経験してみてはじめてわかることが多いものです。例えば、ソーメンのつけ汁を作って市販品と比較してみる。最初は味の違いだけでも、次回には醤油○mlで作って1/4量使用したから、塩分○gになるというように、興味は広がっていくはずです。
 よく料理は愛情といいますが、それ以上に料理は科学だと私は思っています。自らが受け身ではなく、楽しく毎日の食事を組み立てることが出来れば今よりも健康で充実した生活が送れるのではないでしょうか。

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