子どもと向き合うその4


鈴木君 がんばれ!―夢にむかって
写真 2年前のことですが、ある中学校の社会課の授業でこんな光景がありました。(先生)「お米の値段はどのくらいかしってるかな」(生徒)「先生、ぼく知ってます。10キロで2800円のがあります。」(先生)「そんなに安い米なんてないよ」(生徒)「いえちゃんとあります。ぼく知ってます。スーパーで売ってます。僕いつもそれ使ってますから。」このときの中学生鈴木聡君(仮名)は小学生の頃、ご両親が離婚して、家事もいつ頃からか彼が「担当」するようになりました。夜勤のあるお父さんの朝食も作ります。そんな彼はスーパーで一番安いお米のありかをちゃんと知っていたのです。
  鈴木君は、たまに寝坊して朝食を準備する時間がないと、朝ご飯抜きで学校に行くことがありました。そんな朝食ぬきで登校したある日、たまたま2時間目が体育の授業でした。体育は大好きだけれど、朝食ぬきの彼にはこたえました。いつもより力を抜いてやっていると、(先生)「鈴木、お前そんないいかげんなことやってると高校いけね―ぞ。お前みたいなのは体育で内申上げないとどうしようもないだろう。」先生は、彼が家事の多くを自分でしていることまでは想像できなかったのかもしれません。しかし、今子ども達と接する中で痛感することは、この他者の立場・気持ちを想像することの大事さです。
  最近は、鈴木君にかぎらず子ども達の生活は様々です。両親が外国籍の子どもも多くなり、文化の違いに子ども達も困ったり、悩んだりしている場合もあります。経済的に厳しいご家庭も増えてきているように感じますが、なかなか表面には出てきません。こうした子ども達のお互いの「違い」が、時にはいじめに繋がっていった場合さえあります。彼らとの体験や生活感覚の違い、価値観の違いに、がく然とさせられることがあります。そんな時、私は、目の前の子ども達の姿とかつて小中高校生だった自分の姿をできる限り重ねながら彼らを理解しうけとめるようにしてきました。
  私は地方の農家の次男坊に生まれ、苦しい生活の中でも親と兄姉達の応援で、なんとか無事に青年時代を過ごすことができ、大学まで進学させてもらいました。中学時代には「浅間山荘事件」「三島由紀夫の割腹事件」があり、社会問題に関心を持ちはじめた私に母は「赤軍派にだけはなるなよ。」と心配そうな目で言い聞かせました。また中学2年生の時の通信簿には「大事なことを忘れてしまうことがあります。森君の将来が心配です。」と書かれてしまいました。思い返すとかなり危ない橋を渡ってきたなという気もします。こんな自分を振り返りながら、目の前の子ども達と話をします。「自分も昔そうだったなあ。悔しかったなあ。」「きっと親はこんなふうに自分を心配していたんだろうなあ」などと想像してみるのです。そうすると目の前の子こどもたちとその当時の自分の姿が一緒に重なって見えてきてしまいます。「あのときの自分とおんなじじゃないか」と思うと嬉しくもなってきます。
  前述の鈴木君の夢は大きくなってJリーグの選手になること。そして世界を舞台に活躍することです。そんな彼が、今年はいよいよ高校受験。彼のめざす高校は全国有数のサッカー名門校。今書いているこの文章が皆さんの目にとまっているころ、きっと彼は夢に向かって大きな1歩を踏み出していることでしょう。鈴木君、頑張れ!

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